猫のワクチンは3種か5種か。室内飼いでも迷ってしまう理由

はじめまして、桧山奈津子と申します。
水戸市に住んでいて、保護猫を2匹と、もう12歳になる柴犬と暮らしています。

以前は10年ほどトリマーをしていました。
そのうち5年は動物病院に併設されたサロンにいたので、診察室のすぐ隣で犬や猫の体を触り続けてきた人間です。

4年前、2匹目の猫をうちに迎えたときのことです。
最初のワクチンの前に「3種にしますか、5種にしますか」と聞かれて、私は答えに詰まりました。

完全に室内で飼うつもりだったので、なんとなく3種でいいんだろうなと思っていました。
でも「5種のほうが守れる病気が多いなら、そっちのほうがこの子のためなのでは」という気持ちも消えませんでした。

この記事では、3種と5種で何が違うのか、室内飼いだとなぜ迷うのかを、飼い主の目線で整理していきます。
どちらを選ぶかを決めるのは獣医師と飼い主ですが、決める前に何を考えればいいのかは、事前に知っておけます。

猫の混合ワクチンの「3種」と「5種」は何が違うのか

まず前提として、猫のワクチンは法律で義務づけられているものではありません。

犬の場合は狂犬病予防法があり、生後91日以上の犬には年1回の予防注射が義務づけられています。
厚生労働省の狂犬病に関するQ&Aにもその旨がはっきり書かれています。

一方、猫の混合ワクチンにはそういった法的な縛りがありません。
つまり「打つか打たないか」も「何種を打つか」も、飼い主が決めることになります。

だからこそ迷うわけです。

3種に入っているのは、どの猫にも必要とされる3つ

3種混合に含まれているのは、次の3つの感染症に対するワクチンです。

  • 猫ウイルス性鼻気管炎(猫ヘルペスウイルス感染症。いわゆる猫風邪の代表格)
  • 猫カリシウイルス感染症(こちらも猫風邪。口内炎や舌の潰瘍が出ることがあります)
  • 猫汎白血球減少症(猫パルボウイルス感染症。子猫がかかると命に関わります)

この3つは、世界小動物獣医師会(WSAVA)が出しているワクチネーションガイドラインの2024年版で「コアワクチン」と分類されています。
コアワクチンというのは、住んでいる地域やライフスタイルを考慮したうえで、すべての犬と猫が接種すべきものという位置づけです。

裏を返すと、3種は「うちの猫に必要かどうか」を悩む対象というより、猫として生きていくなら基本的に必要とされているもの、ということになります。

5種で足されるのは、外との接点がある猫向けの2つ

では5種で何が足されるのか。

国内で使われている混合ワクチンの成分表は、一般的に次のような構成になっています。

ワクチンが対応する感染症3種5種
猫ウイルス性鼻気管炎
猫カリシウイルス感染症
猫汎白血球減少症
猫白血病ウイルス感染症
猫クラミジア感染症

追加されるのは猫白血病ウイルスと猫クラミジアです。
WSAVAの分類では、この2つは「ノンコアワクチン」にあたります。

ノンコアワクチンの定義がなかなか的確で、地域やライフスタイルによってその感染症にかかるリスクがある動物に強く推奨されるもの、とされています。
そしてガイドラインの原文には、そのライフスタイルの例として「屋外に出入りする」「多頭飼育の家庭」がはっきり挙げられています。

なお、混合ワクチンには5種のほかに6種や7種と呼ばれるものもあり、メーカーによってカリシウイルスの株数などの中身が少しずつ違います。
同じ「5種」でも製品が違えば構成が変わることがあるので、実際に打つときは目の前の病院がどの製品を使っているのかを聞くのが確実です。

室内飼いなのに、なぜこんなに迷うのか

ここまで読むと、「うちは完全室内飼いだから3種でいい」で話が終わりそうに見えます。

実際、私が調べた範囲でも、室内のみの猫には3種を、外に出る可能性がある猫には5種を勧めている病院が多数派でした。
方向性としてはそれで合っているのだと思います。

ただ、私が引っかかったのはその先でした。
「外に出ないなら病気をもらう機会はゼロなのか」というと、どうもそうではないらしいのです。

ウイルスは猫だけでなく人にもくっついて入ってくる

アメリカの動物病院協会(AAHA)と猫臨床獣医師協会(AAFP)が共同で出している2020年版の猫のワクチン接種ガイドラインに、この点についての記述があります。

室内飼いの猫であっても、病原体にさらされる可能性がある経路として、次のようなものが挙げられていました。

  • 同居している猫(症状が出ていない感染猫やキャリアの猫)から
  • 飼い主の体や衣服、靴に付いて外から持ち込まれるもの
  • 健康診断などで動物病院に連れて行ったとき

さらに、私が一番なるほどと思ったのはこの部分です。
理論上、完全室内飼いの猫は、外に出る猫が自然に得ている免疫の後押しを受けられないため、猫汎白血球減少症や猫カリシウイルス感染症にはむしろかかりやすい可能性がある、と書かれていました。

これはトリマー時代の感覚とも合っていました。
サロンには「うちの子は外に出ないから」という飼い主さんがたくさん来ますが、その子たちも結局は月に何度か外の世界と接触しているわけです。

同居猫がいる家は、少し話が変わる

もうひとつ、室内飼いでも判断が変わる条件があります。

WSAVAの2024年版ガイドラインでは、猫白血病ウイルスのワクチンについて、1歳未満の猫、屋外に出る猫、そして屋外に出る猫と一緒に室内で暮らしている猫にも接種すべきだと書かれています。

つまり、その子自身は一歩も外に出ていなくても、同じ家に外へ出る猫がいるなら、白血病ウイルスのリスクは「外の猫」の側から入ってくるという整理です。

多頭飼いの家では、ここを一度確認しておいたほうがいいと思います。
うちは2匹とも完全室内なので該当しませんでしたが、これを知らないまま「全員室内だから全員3種」と決めてしまう家もありそうです。

うちが3種か5種かを決めるときに書き出したこと

情報を集めたあと、私は紙に条件を書き出しました。
獣医師に相談するとき、自分の家の状況を正確に伝えられたほうが話が早いと思ったからです。

書き出したのは次のような項目です。

  • 猫が外に出る機会がまったくないか、ベランダや庭に出ることがあるか
  • 脱走したことがあるか、脱走しそうな環境か(網戸、玄関の動線)
  • 同居猫がいるか。いる場合、その猫は外に出るか
  • 今後、ペットホテルや動物病院での預かりを使う予定があるか
  • 新しい猫を迎える可能性があるか
  • 猫の年齢と、これまでの接種歴
  • 過去にワクチンで具合が悪くなったことがあるか

これを持っていったら、獣医師との会話がずいぶん具体的になりました。
「室内飼いです」の一言よりも、「網戸を自分で開けるので脱走のリスクがある」と言えたほうが、話が進みます。

判断の目安を大まかにまとめると、こうなります。

猫の暮らし方検討の目安
完全室内・単頭・外出の予定なしまず3種が基本線
完全室内だが、外に出る同居猫がいる白血病ウイルスへの備えを相談する
脱走歴がある、ベランダや庭に出る5種を含めて相談する
ペットホテルや預かりを使う予定がある施設の接種証明の要件も含めて確認する

災害のことも頭に入れておいたほうがいいと思います。
環境省が公表している人とペットの災害対策ガイドラインでは、災害に備えた健康管理の例として、猫の場合も「各種ワクチン接種を行う」ことが挙げられています。

避難所に同行避難をすると、見知らぬ猫と同じ空間で過ごすことになります。
そのときになって慌てても遅い、というのはよく分かる話です。

毎年打つのか、3年に1回でいいのか

3種か5種かで悩んでいるうちに、私はもうひとつの疑問にぶつかりました。
「そもそも毎年打たないといけないのか」という話です。

昔から、混合ワクチンは1年に1回というのが一般的でした。
うちの柴犬もずっとそうしてきました。

ところが、WSAVAの2024年版ガイドラインを読むと、猫のコアワクチンについてはこう書かれています。

  • 感染リスクが低い暮らし方をしている猫では、コア3種の再接種は3年に1回より頻繁に行わない
  • 感染リスクが高い暮らし方の猫では、猫汎白血球減少症は3年ごと、鼻気管炎とカリシウイルスは年1回まで
  • 現代の生ワクチンによるコアワクチンの免疫持続期間が長いことを示す査読済みの研究が数多くある

つまり、リスクの低い猫に毎年フルセットで打つ必要は必ずしもない、という考え方が国際的なガイドラインとして示されているわけです。

ただし、ここが難しいところで、免疫がどれくらい持つかには個体差があります。
1年しか持たない子もいれば、3年持つ子もいます。

抗体検査という選択肢

そこで出てくるのが抗体価検査です。
血液を調べて、その猫の体にウイルスへの抵抗力がどれくらい残っているかを数値で確認し、それを見てから接種するかどうかを決めるという方法です。

この考え方を飼い主向けに公開している病院も出てきています。
たとえば水戸市見和にある水戸動物病院が公開しているワクチンプログラムの解説では、従来の毎年接種のプログラムと、WSAVAのガイドラインに沿った新しいプログラムを並べて説明していて、抗体持続期間には個体差があること、抗体検査で愛猫の状態を数値化できることが書かれていました。

同じサイトに「毎年のワクチン接種と抗体検査、どちらの方が正しいということではない」とも書かれていて、私はこの一文で少し肩の力が抜けました。
年齢や持病、暮らし方によって答えが変わるということだと理解しています。

なお、抗体検査には別途費用がかかりますし、検査の結果、抵抗力が低ければ結局ワクチンを打つことになります。
費用の設定は病院ごとに違うので、気になる方は電話で聞いてしまうのが早いです。

打つ前と打った後に、飼い主ができること

最後に、副反応の話をしておきます。
ここを不安に思って接種をためらう方は多いですし、私もそうでした。

先ほどのAAHA/AAFPのガイドラインには、アメリカの動物病院グループで約50万頭の猫に対して行われた調査の数字が載っています。
接種後30日以内に何らかの有害反応が報告されたのは接種した猫の0.52%、命に関わるアナフィラキシーは約1万回の接種あたり1件から5件程度とされていました。

まれではあるけれど、ゼロではない。
その前提で、飼い主にできることを整理しておきます。

  • 接種の当日は、猫の食欲や便の状態、元気があるかを朝のうちに確認する
  • 少しでも調子が悪そうなら、その日は見送って日程を変えてもらう
  • できるだけ午前中に予約を取る(何かあったときに病院が開いている時間帯に気づけます)
  • 接種後は当日から翌日にかけて、いつもより注意して様子を見る
  • 顔の腫れ、嘔吐や下痢、呼吸が苦しそう、ぐったりしているといった変化があればすぐ連絡する

同じガイドラインには、1歳前後の猫や、一度に接種するワクチンの量や本数が増えるほど有害反応のリスクが高くなる傾向も書かれていました。
「多めに打っておけば安心」とは言い切れない理由がここにあります。

守れる病気の数だけを見て種類を増やすのではなく、この子の暮らしに必要なものを選ぶ。
そう考えると、3種か5種かという問いは、猫の数だけ答えがあるのだと思います。

まとめ

長くなったので、要点を整理します。

  • 3種は猫ウイルス性鼻気管炎、猫カリシウイルス感染症、猫汎白血球減少症に対するもので、国際的にはすべての猫が接種すべきコアワクチンとされている
  • 5種ではそこに猫白血病ウイルスと猫クラミジアが加わり、こちらは暮らし方によって判断するノンコアワクチンにあたる
  • 完全室内飼いでも、同居猫や飼い主が持ち込むもの、通院などを通じて感染症にさらされる可能性はある
  • 外に出る同居猫がいる室内猫は、白血病ウイルスについて別途相談する価値がある
  • 接種の頻度についても、リスクの低い猫は3年に1回より頻繁にしないという考え方が示されていて、抗体検査という選択肢もある

うちの4歳の子は、結局3種を選びました。
完全室内で、同居猫も外に出ず、脱走のリスクも対策済みだったからです。

でもそれは「室内飼いだから3種」と機械的に決めたわけではなく、条件をひとつずつ確認したうえで獣医師と話して決めたことです。
その過程があったからこそ、今も納得しています。

迷っている方は、まず自分の家の条件を紙に書き出してみてください。
そのメモを持って病院に行けば、その子にとって必要な答えが出てくるはずです。

最終更新日 2026年9月3日 by wannya