韓国ブランドの次はどこが来るのか。
ここ数年、店頭やSNSでそんな話をする機会が増えました。
はじめまして、ファッションライターの篠原遼です。
都内のセレクトショップで10年販売員をしたあと独立し、いまはアジアのストリートブランドとテックウェアを中心に取材しています。
私がいま一番追いかけているのがベトナムです。
アジアのブランドを集めたオンラインストア「60%(シックスティーパーセント)」も、2026年9月に「ベトナムブランド図鑑30」という特集を公開しました。
注目しているのは私だけではないようです。
ただ、ひと口に「ベトナムのブランド」と言っても、北の首都ハノイと南の商業都市ホーチミンでは、街も服もかなり違います。
この記事では、両都市のシーンの違いを、気候とブランドの成り立ちから整理してみます。
これからベトナムの服を買ってみたい人や、旅行で店を回りたい人の参考になればうれしいです。
目次
ベトナムは「縫う国」から「ブランドを出す国」へ
世界第3位の縫製輸出国という土台
ベトナムの服を語るなら、まず縫製の話からです。
ジェトロの地域・分析レポート「縫製輸出で台頭、裾野拡充とFTAが繊維産業の追い風に」によると、ベトナムは中国、バングラデシュに次ぐ世界第3位の繊維製品輸出国です。
繊維・同製品の輸出額は、2000年の約20億ドルから2022年には約450億ドルまで伸びました。
ユニクロを展開するファーストリテイリングも、2025年9月時点でベトナムの縫製工場73カ所と契約しています。
日本で売られている服のタグに「MADE IN VIETNAM」を見かけることが多いのも当然です。
ジェトロの国別の基本統計を見ても、2025年に日本がベトナムから輸入した品目のうち、「衣類・付属品」は15.4%で、電気機器に次ぐ2位でした。
私たちのクローゼットには、気づかないうちにベトナムで縫われた服がかなり入っているはずです。
ただし、この輸出を支えてきたのは主に海外資本でした。
同じレポートには、ベトナム繊維協会(VITAS)の「外資系企業がベトナムの繊維製品輸出額の約65%を占める」という発表も引かれています。
世界貿易機関(WTO)の繊維・衣料品のグローバル・バリューチェーン分析(2024年版)は、ベトナムの生産者について「労働集約型のCMT(裁断・縫製・仕上げ)を担い、原材料の多くを輸入に頼っている」と書いています。
長いあいだ、ベトナムは「海外ブランドの服を縫う国」だったわけです。
自分たちの名前で売るブランドが増えてきた
その土台の上に、ここ10年ほどで自国のブランドが次々と育ってきました。
前述の60%の特集も、ベトナムを「つくる国」から「発信する国」へ変わりつつある国として紹介しています。
国内の市場が大きいことも追い風です。
ジェトロの基本統計によると、ベトナムの人口は2025年に1億235万人。
海外に出る前に、まず自国の若い客に支持されて育っていける土壌があります。
販売員時代、私が服を見るときに最初に確かめていたのは縫製でした。
縫い代の始末や、ステッチの細かさ、肩まわりの縫い合わせ方です。
ベトナムのブランドの服を手に取ると、このあたりがきちんとしているものが多いと感じます。
世界中のブランドの服を縫ってきた工場と職人が国内にいる。
これは新しいブランドにとって大きな強みです。
ハノイとホーチミンは、まず気候がまるで違う
ハノイとホーチミンの違いを考えるとき、私が真っ先に挙げたいのは気候です。
北部のハノイと南部のホーチミンでは、気温の動きがまったく違います。
| 月 | ハノイ(最低/最高) | ホーチミン(最低/最高) |
|---|---|---|
| 1月 | 14.6℃/20.0℃ | 23.4℃/32.0℃ |
| 4月 | 21.9℃/27.7℃ | 26.4℃/34.5℃ |
| 7月 | 26.5℃/33.3℃ | 25.2℃/33.0℃ |
| 12月 | 15.4℃/22.1℃ | 23.9℃/31.6℃ |
数値は世界気象機関(WMO)の世界気象情報サービス「ハノイ」と、同サービスのホーチミンのページにある月別平年値(1991〜2020年)です。
ハノイの1月は最低気温が15℃を下回ります。
日本の感覚でいえば、ちょうど秋の終わりくらいでしょうか。
一方のホーチミンは、1年を通して最低気温が23℃を下回りません。
ここからは私の見立てです。
ハノイには、スウェットやフーディ、ジャケットに袖を通す季節があります。
重ね着ができると、服で遊べる幅が大きく広がります。
ホーチミンは一年中Tシャツの街です。
そのぶんグラフィックやシルエットで個性を出すしかなく、Tシャツ1枚の完成度が問われます。
気候だけでブランドの作風が決まるわけではありませんが、両都市の服を見比べるときの手がかりにはなると思っています。
ホーチミンはブランドも売り場も層が厚い
名の知れたブランドの多くはホーチミン拠点
ベトナムのストリートブランドとしてよく名前が挙がるブランドを、公式サイトの会社情報で調べてみました。
すると、そのほとんどがホーチミンを拠点にしていました。
| ブランド | 拠点 | 始まり | 公式サイトで確認できた特徴 |
|---|---|---|---|
| DirtyCoins | ホーチミン | 2017年 | 前身は「Yars Shop」。資金3,000ドルから始めた |
| Degrey | ホーチミン | 2016年 | 東洋的なテイストで、伝統と現代を組み合わせる |
| SWE(Street Wear Eazy) | ホーチミン | 2016年末 | スローガンは「Young kids with a mission」 |
| Bad Habits | ホーチミン | 年の記載なし | サイゴン出身の2人が創業 |
DirtyCoinsやSWEはハノイにも店を出しています。
それでも、会社の登記も店舗の数もホーチミンが中心です。
人口が多く、商業の中心でもあるホーチミンに、ブランドもお金も集まりやすいのだと思います。
ブランド同士のつながりが濃いのもホーチミンらしいところです。
Bad Habitsの公式サイトによると、創業者のHoan Mai氏はもともと、ベトナムのストリートブランド「Hades」の共同創業者でした。
Hadesを離れてBad Habitsを立ち上げ、いまでは両ブランドが競い合う関係だと紹介されています。
狭い世界で人が動き、ブランドが枝分かれしていく様子は、90年代の裏原宿を思わせます。
旅行者が服を買いに来る街になった
ホーチミンでは売り場の形も変わってきました。
ベトナムのTuoi Tre Newsは2026年7月、ホーチミンが海外からの旅行者にとってファッションの買い物先になりつつあると報じました。
記事によれば、多くのローカル店で外国人客が売上の60〜70%を占めているそうです。
同じ記事では、ローカルブランドを集めた商業施設「The New Playground」を、10年以上前に生まれた先駆けとして紹介しています。
その後も「11 Garmentory」や「Rue Miche」など、ベトナムのブランドを1カ所に集めた施設が増えています。
DirtyCoinsやSWEも、公式サイトの店舗一覧にThe New Playgroundの店を載せています。
記事の中で、とくに印象に残った話が2つあります。
1つは、RMITベトナムでファッションビジネスを教える講師の話です。
TikTokやInstagramで保存した商品の画像を店に持ち込み、店員に同じものを探してもらう旅行者が多いといいます。
もう1つは、11 Garmentoryの担当者の言葉です。
ベトナムのブランドの魅力は、もう安さではなく、デザインと品質、買い物の体験にあると話していました。
地元のブランドThe Idiotの創業者も、旅行者は「おまけの客」ではなく主要な客層の一つになったと答えています。
旅行で服を見るなら、ホーチミンは効率がいい街です。
1カ所で多くのブランドを見比べられるので、自分に合うテイストを短い時間で見つけやすくなります。
ハノイは数が少ないぶん、作り手の色が濃い
ヒップホップとパンクから始まったシーン
ブランドの数ではホーチミンにかないませんが、ハノイのシーンには別の面白さがあります。
ブランドの成り立ちに、作り手の好きなカルチャーがそのまま出ているのです。
たとえばClownZは、2011年にハノイで始まったブランドです。
創業メンバーには、Cウォークのダンサーやブレイクダンサー、ビートボクサーがいました。
ヒップホップ好きの仲間が集まって生まれたブランドです。
ベトナムのメディアSaigoneerは、2014年にできた「Nirvana」というショップを、ハノイで初めてのパンク系ストリートウェアの店として紹介しています。
当初はなかなか売れず、注文の多くは海外から入っていたそうです。
それでも独自のスタイルを貫き、2018年には仲間を増やして、ハノイを拠点にする制作集団「Antiantiart」を立ち上げました。
サイバーパンク調の尖った映像で、少しずつ支持を広げていったと書かれています。
政治と歴史の重みがある首都で、あえて異端の服をつくる。
数が少ないぶん、一つひとつのブランドに作り手の思い入れがはっきり出ます。
販売員の目で見ると、「売れるもの」より「着たいもの」から始まっているブランドが多い印象です。
街の買い物事情も見ておきましょう。
Tuoi Tre Newsの2026年2月の記事によると、ハノイのチュアボック通りはローカルブランドの店が多く、若い人に人気があります。
大型施設に多くのブランドが集まるホーチミンとは、買い物の仕方も少し変わってきます。
首都発のハイエンド、HBS
ハノイ発で私がずっと気になっているのが、HBSというブランドです。
60%が2020年5月に出したプレスリリースは、HBSを「ベトナム・ハノイ発のハイエンドストリートウェアブランド」と紹介しています。
リフレクティブ(光を反射する)素材や、エッジの効いた色づかいが持ち味です。
店舗のオープン時には300人を超える列ができたそうです。
大量生産せずに作った分を売り切る方針で、日本のセレクトストアに入ったのは60%が初めてでした。
発表当時の価格は5,000円から2万円を超えるものが大半で、ベトナムのブランドとしては高めの価格帯です。
HBSの服を見ていて感じるのは、さきほどの気候の話とのつながりです。
フーディやスウェットのように、寒い季節がある街だからこそ作り込める服が強い。
しっかりした生地とドロップショルダーのシルエットで、テックウェアに近い硬質な雰囲気があります。
HBSのアイテムを1着ずつ追いかけている記録としては、東京とハノイを行き来しながら書かれているHBSなどハイエンドなストリートウェアをアーカイブしたブログが参考になります。
スウェットやテックショーツなど、季節ごとの合わせ方まで紹介されています。
日本から手に取るときに見ておきたいこと
ここまでの話を、表に整理しておきます。
| ハノイ | ホーチミン | |
|---|---|---|
| 気候 | 冬があり、1月は最低15℃前後 | 一年中暑く、最低気温は23℃以上 |
| ブランド | 数は少なく、カルチャー色が濃い | 有名ブランドの多くが拠点を置く |
| 売り場 | チュアボック通りなど通り沿いの店 | The New Playgroundなどの複合施設 |
| 注目したいアイテム(筆者の見立て) | フーディ、スウェット、アウター | グラフィックTシャツ |
最近は、ベトナムまで行かなくても日本の通販でベトナムのブランドを買えるようになりました。
元販売員として、買う前に見ておいてほしいことをまとめておきます。
- サイズ表の身幅と着丈を、手持ちの服と比べる
- ドロップショルダーの服は、肩幅より身幅と袖丈を重視する
- 表示価格が関税・送料込みかどうか確認する
- 公式サイトの会社情報で、ブランドの拠点や始まった年を確かめる
- 人気のアイテムは数が少なく、再入荷しないこともあると考えておく
いちばん大事なのは1つ目です。
ベトナムのストリートブランドは、ボックスシルエットやオーバーサイズの服が多く、表記サイズだけで選ぶと大きすぎることがあります。
最後の点も、HBSのように作った分を売り切るブランドではとくに大事です。
気になったものは早めに見ておくことをおすすめします。
まとめ
ベトナムは長いあいだ、海外ブランドの服を縫う国でした。
その縫製の土台の上に、いま自分たちの名前で服を出すブランドが育っています。
ホーチミンは、ブランドの数も売り場も多い商業の街です。
旅行者が服を買いに来る街になり、1カ所で多くのブランドを見比べられます。
ハノイはブランドの数こそ少ないものの、ヒップホップやパンクから始まったブランドが多く、作り手の好きなものが服にそのまま出ています。
冬がある街なので、フーディやアウターまで作り込んだHBSのようなブランドも生まれました。
どちらの街の服が好きかは、実際に着てみないとわかりません。
まずはホーチミン発とハノイ発のブランドを、1着ずつ試してみてください。
袖を通すと、2つの街の違いが服の作りからわかってくるはずです。
最終更新日 2026年10月27日 by wannya









